〜 '99 鈴鹿8耐 奮戦記(起承転結の「承」編)〜




8耐決勝。。。目指せ完走


ついに決勝を迎える'99鈴鹿8耐。決勝のドタバタ記録はこちらで。
 (別ウインドウに表示されますので、切り替えながら読み進めてください)




 昨夜は遅くなってしまい、みんな睡眠不足。
 でも、来るべき決勝の緊張感は、そんなものを吹き飛ばす。

 午前9時30分。30分間のフリー走行スタート。


 マシンそのものは何も問題無さそう。しかしファイナルが合わなすぎ。
 決勝用にかなりロングめにしたのだが、唯でさえヘアピンやシケインは2速まわりのため苦しいのに(ノーマルミッションの辛さ)。これは要変更だな...。


 ピットとの行き違いでピットインのサインボードが出ず、松島が走り続けてしまい、なんと岡田はフリー走行を走れず...。



 前日に交換したブレーキパッド・チェーンの再調整と、ファイナル変更、各部の最終チェックを済まし、いよいよサイティングラップスタート。
 サイティングラップとウォーミングアップラップ(2周)は義務のため、走らなければペナルティを食らう。

 スタートライダーの松島がコースイン。


 さすがに緊張してきた。
 かつて観客として見に来た時、迫りくる8耐のスタートへの緊張感と、サイティングラップを走るライダーすべてに対し、妙にゾクゾクしたもの。今はゾクゾクさせる立場なんだな、なんて思うと、心地よい緊張とこの上ない幸せを感じる。

 走り出してみると、自分自身もそうだけど、お客さんも「いよいよだな...」ってムード。それがコースサイドから伝わってくる。



グリッドにて
この時撮影していたビデオをあとで見てみると...
「絶対完走するぞ! でも押して帰ってくるのはイヤ...。」
「でも帰ってきます。転ばないで行きま〜す。」
なんて言ってました。
何か予知するものでもあったのか?(笑)


選手紹介
 ウォーミングアップラップのスタートまでの間に、選手紹介が行われるが、例によってスタート位置が後ろのほうなので、ぼくらのところまで来るのには時間がかかる。
 今回もどのくらい拍手がもらえるかな?なんて期待してたのだけれど、ウォーミングアップラップのスタート直前になってしまって、本人は紹介されていることにまったく気付かず。ちょっと残念。
 高圧チアホーンの音も、レースアナみし奈さんによる紹介も、全然聞いてませんでした…。



カウントダウン…スタート!

 午前11時30分。カウントダウンからいよいよスタート。
 フライングもせず、出遅れもせず、まずまず無難なスタート。


スタート:プロボーラー岡田
見よ!この美しいフォーム。
なんでボーリングしてるの? 岡田さん、の図


スタート〜1コーナーへ
8時間の幕が切って落とされた。
数え切れないほど曲がるであろうコーナーの、まずひとつめへと向かう。
(後ろにいる台数を数えちゃぁいけません!)


 このR1。ハーネスを始め電気系はすべてノーマルのまま。
 ニュートラルスイッチも生きているので、ギアがローに入っているとセルは回らない。

 そんなの聞いたのは、スタート直前。
 ありゃ、そう言えばスタートの練習も全くやってなかったなぁ…。

 てなわけで、エンジンを掛けてからギアを入れてスタート。コンマ何秒かはロスした?



 スタートとオープニングラップで数台をかわし、数台にかわされながら、10位くらい順位を上げる。
 ほぼ予定通り、予選の2秒落ち程度で周回する。
 ワークスを含めた数台の転倒車を横目に、少しずつ順位を上げていく。

 松島の1回目の走行は燃料タンクの容量の問題もあり、わずか13周。40分足らずでピットイン。

 燃料補給とライダー交代のみでピットアウト。岡田が本日初走行へ。


 早々に周回遅れになったが、直後の逆バンで土煙。
 だーれだ? と通りすがりに見てみるとラッキーストライクの#33。「はい、消えた〜!」(実際には消えやしないんだけど...)
 結構コケてるとこが多いし、こりゃ大事にいかないとなっ。

 マシンが煮つまってないせいもあるだろうし、ライダーが衰えているせいもあるんだろうけど、今までになくすごい疲れる。これは長い8耐になりそうだ...。



ヘアピンの松島
コーリン・エドワーズを従えて?
ちゃうちゃう、周回遅れ直前の図。


燃料タンクと作戦
 ぼくらのR1の燃料タンクは容量をアップしていない。つまりスタンダードの18リッタータンク。
 8耐では最大24リッターまで拡大が許されているが、その3分の2ということになる。この差は大きい。

 8耐の規則ではライダーの連続走行時間は2時間だから、ピットインのタイミングは基本的にタンク容量で決まると言っていい。
 満タンで走れる周回数が多いほど、作戦のバリエーションも増えるし、トラブルなどの際にも対応が効く。
 今回はこのタンク容量と燃費から、当初は50分交代(9ストップ10セクション)で行く予定だったが、どうも50分も怪しいということになり、やや早めに1回目のピットインを行った。

 しかし、あまりにも早すぎるピットインだったので、ピットインの回数を増やさねばならないのでは?と1回目の走行を終えてやや心配になった(しかし既に頭は回らなくなっていたので、とりあえずスタッフまかせ)。

 しかし、そんな心配はその後の事件で関係なくなった…。


 岡田の1回目の走行は、慎重に順位をキープしながら消化。

 多くのチームが1時間過ぎで、バタバタとピットイン。ライダーチェンジをして出ていく。
 そんな中、松島は早くも2回目の走行に備えて、ツナギに袖を通す。


 2度目のピットイン。今度は前後ともタイヤ交換だ。メカニックも緊張。
 ガスチャージとやや時間をかけながらもタイヤ交換を済まし、松島がコースへ出ていく。


松島2回目の走行へGO!
PIT OUT !
給油とタイヤ交換を済ませ、2回目の走行に出ていく。
マシンはまだきれい…。


 そしてその3周目…。


「ヘアピンで1台が転倒しています。ゼッケンは...42番です。」


 「しまった〜!
しまった〜!

 ヘアピン手前の110Rで前車を抜いたのはいいが、あらぬラインを通ってしまって、ヘアピンのイン側へまっしぐら。
 なんとか曲げようとするも、あえなくフロントからガッシャーン
 慎重に行くはずが何やってんだ俺は!?

 あわててマシンを起こす。なぜか頭を打ったようで、左目のコンタクトレンズがずれてしまっている。

 8耐の決勝でコケたのは初めて。こんなところでこんなに早い時間にリタイヤなんてできるはずがない。
 マシンは大丈夫か?

 ガードレールに立てかけたマシンをチェック。
 外装はボロボロだ。スクリーンなどかけらもない。フロントブレーキのマスターシリンダーもイカれている。その他細かいところは損傷しているが…。頭の中で持ってきたスペアパーツを思い浮かべる。
 うん。ピットまで帰れば、スペアパーツでなんとかなりそうだ。

 問題はエンジン。グラベルに突っ込んでいるので、砂を吸ってしまっていたら...。
 とにかくピットまで。しかし、エンジンが掛かるのか?掛けられるのか?

 おそるおそるタンクを持ち上げてキャブボックスを覗いて見ると、砂利がたっぷり入り込んでしまっている。
 車体の修理はなんとかなったとしても、エンジンがイカれたらもう終りだ。

 砂利をかき出してみるがラチがあかない。
 そうだ。キャブボックスごとはずしてしまえ!

 「ぐげっ!」
 キャブ、はずれた。。。(笑い話にもなりゃしない。いや立派な笑い話だな。)

 気を取り直して、何度か取り付けを試みるが、どーにもなりゃしません。
 あ〜ぁ、こりゃ最悪。覚悟を決めるしかないな。。。

 「押す〜」とオフィシャルに宣言して、炎天下の長旅がスタート。

 ピットまで帰れば絶対に直せる。時間がかかっても、戻ってそして最後まで走りたい。
 このまま行き倒れてしまっては、岡田にもスタッフにも応援してくれるみなさんにも申し訳なさ過ぎる。

 ヘアピンから200R、スプーン、裏ストレート、130R。
 コースの左側(イン側)とは言え、こりゃ1時間半コースだなぁ、とほほ。



 その時、ピットでは...

 ホームストレートを通過するはずのマシンが帰ってこない。転倒か?トラブルか?

 モニターに一瞬写し出された映像から、ヘアピンで転倒とわかる。
 スタッフが情報を求めてコントロールタワーへと走る。

 「ダメかもしれない…。スペアパーツなんてあんまりないし…。」岡田はがっくり。

 「でも、なんとか帰って来てほしい…。」スタッフの願い。

 そんな時ヘアピンから情報が入ってくる。。。


VTRに映ったものは...
 スタッフの宇佐美くんの奥さんが、レーススタート後から、少しずつ移動しながらビデオを撮っていました。
 130R・ダンロップコーナーで撮影したあと、ヘアピンへ移動。岡田の走行を録画。つづいてライダーチェンジした松島を追う。
 12時45分過ぎ、ビデオのモニターに映ったのは、110Rを曲がり切れなかった#42。
 フロントを滑らせ、グラベルに突っ込み、土煙を上げるところから、エンジンの始動をあきらめ、ピットへ向けて押して行くまで、その一部始終がビデオに収まっていたのだ!

 偶然なのか奇蹟なのか?

 彼女はピットと連絡を取り、ヘアピンの進入でコケたこと、キャブまわりをずっと見ていたこと、押してピットへ向かっていることを伝える。

 そしてピットまでそのビデオを持ち帰ると、メカニックがそれを見て損傷箇所を予想、スペアパーツの準備をしていた。

 自分のチームの転倒シーンに出くわすことも、それをビデオに撮っていたことも極めて偶然なことなのに、それを元に修復の準備までされていたとは…。

 こんなぼくらは実は強運?(ならコケないか...(^ ^;)


 ヘアピンのアウト側だったら、押すのはずーっとコースの外周側。そしたら2時間半コースだったろうな。

 ピットまで帰れば再スタートできるかなぁ、できるよなぁ、レースに復帰したいよ〜。最後まで走ってナンボの8耐だもんな。

 暑いよなぁ、疲れるんだろうなぁ、点滴とかされちゃうのかなぁ、もう一度マシンに乗れるのかなぁ。

 なんてことを思いつつ、ヘアピンから一気に200Rの外側の18番ポストまで押して行く。
 この辺はコースのアウト側で、しかもランオフエリアは狭い。すぐ横をレーシングスピードでみなさん走っておられます。危ない危ない。さっさと行かないと。

 ここまでたどり着くとすでに体力は激しく消耗。暑いし重い。

 オフィシャルからの「ペナルティが付くけど、裏のストレート側へつながる通路があるので、ショートカットするか?」の問いに、ふたつ返事で答える。
 スプーンまで行かなくていいのなら、かなり距離も時間も短縮できる。

 ポストで水をもらい、飲みながら頭や体にもかけ小休止。

 気を取り直して、今度は裏のストレート(西ピットの向かい側あたり)から130Rを目指す。
 なんかずっと登りだな。。。



 押しているという情報を得たピットでは、「どうせすぐには戻って来られない。今のうちに飯を食っとけ。」という足立さんの指示で腹ごしらえ。

 モニターの隅に、ちらりちらりと映る姿を見ながら、現在位置を確認。思いのほか早くピットに近づいている。
 スペアパーツも準備され、ひたすらマシンとライダーの帰りを待つ。


みんなに励まされながら
 とにかくここからは本当にキツかった。
 ちょっと進んでは休み、また押す。その繰り返し。

 コースオフィシャルがリレーして押すのを手伝ってくれる。
 そのオフィシャルに
 「まだスタートして1時間半だから。時間はあるよ。休みやすみで大丈夫だよ。」
 「ゆっくりでいいからピットまで帰って、直して、再スタートして、最後まで走ったら、パレードラップで思いっきり手を振ってよ。」
 そう励まされると、嬉しいとか、悔しいとか、がんばるぞとか、そんな言葉では表現できない何かが、心の奥底から込み上げてきた。

 途中、フェンス越しにお客さんにも「がんばれ〜」と声を掛けられました。
 ライダーやスタッフだけでなく、オフィシャルもお客さんも、みんながゴールを目指すレース、それが8耐なんだと改めて感じた「旅」でした。


 オフィシャルの許可を得て、スタッフがピットエリアの入口まで迎えに行く。そこからならメカニックがライダーの代わりに自分たちのピットまで押すことができる。

 まだかまだかとピットインしてくる車両が来る度に身を乗り出す。


 何度休んだかわからない。一歩一歩進んできて、ようやくシケインが見えるところまで来た。
 転倒から約40分後、シケイン手前でオフィシャルの指示の元、間隙を縫ってコースを横断。ピットロードへ。ここからは下り坂だ。

 マシンにまたがり惰性でピットロードを下って行く。

 ピットエリアの入口にスタッフの姿が見える。
 やっと帰って来られた。もう押さなくていいんだ。あとは頼んだ…。




 14時30分。ピットロードをピンクのマシンがそろりそろりと下ってくる。
 「来た!」

 マシンをメカニックに託すと松島はその場にヘタり込む。
 メカニックはピットまで傷ついたマシンを移動する。


これからがぼくらの出番 やっとたどりついた
ピットへ!
ピットの入口からはメカニックがピットを目指して押す
グロッキー!
なんとか帰っ来た松島は疲労と安堵でもうヘロヘロ。


 事前に予測していたので、すぐにマシンの修復にとりかかる。
 「なんとか戻ってきたんだ、絶対に走らせる。」
 メカニック総出で、カウリング、シートカウル、キャブまわり、フロントブレーキ、フロントホイール、ステップ周りと手が付けられていく。
 不思議なことにマフラーもサイレンサーも大きなダメージはない。

 整備性は決して良くない。そこまで手のかかったマシンにすることはできなかった。メカニックもR1にはまだ不慣れな点が多い。
 でもメカニックの熱い思いは、少しずつ再スタートへ向けてマシンを修復させていく。



まだまだつづく。。。


転倒のあとの「転」編。>>GO!




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